「勉強疲れたな」
「学校の人間関係に疲れた」
「恋愛も部活も思いどおりにいかない」
若いから元気だと思われている高校生にも疲れてしまうことはたくさんあります。
大人と同じように、日々いろんなことに悩みながら生きています。
そんな高校生だから、大人と同じように心が疲れてしまったり、体が疲れてしまったりすることがあります。
「本当の自分はこんなはずじゃない」
「自分はまだ本気を出していないだけ」
「こんなつまらない生活じゃなく、もっと伸び伸び生きたい」
鬱屈したエネルギーがたまっている人もいるかもしれません。
私の高校生活はそんな感じでした。
部活動に打ち込むでもなく、勉強を一生懸命やるわけでもない。
なんとなく毎日が過ぎていくようでした。
田舎だったので、「早く都会に行きたい」と憧れていました。
ここじゃないどこかに行きたいなとぼんやり思っていました。
青春を何か一つのことにぶつけるといった情熱はありませんでした。
一つのことじゃなくてもいいから、自分のしたいことを色々やってみればよかったのではないかと今では思います。
その頃の私がこの小説に出会っていたら、どう感じていたのか。
私は大学生になってからこの小説に出会いましたが、高校生の自分におすすめしたい小説です。
それが村上龍さんの『69 sixty nine』という小説です。
“16歳の時にこの本に出会いました。面白くて、興奮して、緊張してあっという間に読み終わり、その後部屋でコートを着て立ったり座ったり、じっとしていられなかったことを覚えています。”
amazonレビューから引用
高校生におすすめのとにかく元気になる小説『69 sixty nine』あらすじ
1969年の長崎県佐世保市が舞台です。
作者の村上龍さんが佐世保の出身で、実体験を基にした青春小説です。
この小説が実体験を基にしているなんて、なんて元気でやんちゃな高校生活を送ったのだろうと村上龍さんに憧れるとともに、呆れてもしまいます。
主人公のケンは佐世保北高校に通う高校3年生です。
ロックや詩や映画などの芸術にも興味はありますが、高校生男子ですからもちろん女性とセックスにもすこぶる興味のある童貞です。
親友のアダモは炭鉱町出身のきつい方言をつかう、ボワーっとしたハンサム。
二人は仲間と一緒に、映画も演劇も音楽も全部を一緒にやるフェスティバルを企画します。
人がいっぱい来て、女生徒にも注目されるだろうと、ケンは楽しい想像をし興奮します。
ケンはとにかく楽しいことをするのが大好きなのです。
学校のマラソンが嫌で博多へ家出をしたり、フェスティバルに向けて映画を撮ったり、マドンナ的存在の女子に気に入られるため学校の屋上をバリケード封鎖したり、フェスティバルの準備をしたりといったエピソードで小説は進みます。
フェスティバルには佐世保市内の色々な高校から人がやってきます。
佐世保の街のケンの顔見知りの人たちもやってきます。
盛大にフェスティバルは行われ、みんなが楽しみ、無事に成功に終わります。
フェスティバルの後、ケンは学校のマドンナとデートしますが、あまりパッとしないデートになります。
ラストは32歳になり、小説家になった主人公ケンが登場人物たちのその後を知っている限り紹介します。
登場人物のほとんどが実在の人物を基にしていると村上龍さんは「あとがき」で書いています。
居酒屋で、昔の仲間や街の人たちがどうしているのか話を聞いているような懐かしさがあり、この小説の読後感からなんだか祭りのあとという感じもあって、私はこの部分もとても好きです。
高校生におすすめのとにかく元気になる小説『69 sixty nine』ポイント
(出典:photo by Sxld クリエイティブコモンズ)
“私の友人は、大学入試に全て落ち、浪人が決定し失意のどん底を彷徨っていた合格発表の帰り、電車の中で不覚にも「69」を読んでしまい、ゲラゲラ笑っていました。”
amazonレビューから引用
なんといっても、主人公ケンの思いついた楽しいことをどんどんやっていく生き様が一番の見どころです。
この主人公のケンはアイデアも豊富ですごいのですが、私がもっとすごいと思うのは行動力。
「楽しく生きる」
このシンプルなメッセージがとても力強いです。
「楽しく生きるためにはエネルギーがいる」
主人公たちはエネルギーに満ち溢れています。
そして主人公ケンとその仲間たちは楽しく生きています。
楽しく生きるためにイベントを企画して実行するので、厄介なことにも巻き込まれますが、それも引っくるめて後から思い出すと楽しいものです。
作者の村上龍さんは、あとがきで、
「こんなに楽しい小説を書くことはこの先もうないだろう」と書いています。
まさにそのとおりで、この小説より楽しい小説を村上龍さんの小説に限らず、私は知りません。
「楽しんで生きないのは、罪なことだ」とも書いています。
このメッセージは私が初めてこの小説を読んだ時にとても鮮烈に残りました。
私の価値観の全てではありませんが、一つには確実になっています。
そんな鮮烈な価値観を自分の中に取り込めたという意味でも、この小説に出会えてよかったなと思っています。
(似たように、私にとって鮮烈な価値観が入ってきた小説に、山田詠美さんの『僕は勉強ができない』という小説があります。こちらも高校生におすすめの小説です。『僕は勉強ができない』の紹介はこちら)
今ここを楽しむことのできていないすべての人におすすめしたい小説です。
でもやっぱり高校生に読んでもらいたい。
なぜなら、早めにこの小説の「楽しく生きる」という価値観をあなたの体の内部に取り込んでもらいたいからです。
この小説のとおりに生きることは難しいかもしれません。
でも、あなたにもやりたいこと、楽しいことがあるはずです。
やりたいこと、楽しいことに素直になるきっかけに『69 sixty nine』という小説はなるかもしれません。
<小説データ>
『69 sixty nine』
村上龍
集英社
235ページ
1987年8月発売
本が苦手な人の読みやすさ★★★★★
おすすめ年代 10代~30代 特に高校生
おすすめ性別 どちらもですが、特に男子
<作者プロフィール>
村上龍(ムラカミ・リュウ)
1952(昭和27)年長崎県生れ。1976(昭和51)年『限りなく透明に近いブルー』(講談社)で群像新人文学賞を受賞しデビュー。その後、同作は芥川賞も受賞。
代表作は『コインロッカー・ベイビーズ』(野間文芸新人賞)、『共生虫』(谷崎潤一郎賞)、『半島を出よ』(野間文芸賞、毎日出版文化賞)など。著書多数。